親との死別や虐待、経済的困難といった理由により、自分が生まれた家庭で暮らすことができない18歳未満の子どもがシンガポールには約1,100人います。
その内、別の家族、いわゆる里親によって育てられている子どもは約430人です。里親は養子縁組とは違い一時的なものですが、シンガポール政府は、家庭の中で育てられることが最も大切であると考え、里親家庭を増やす取り組みを行っています。
シンガポールの里親制度の歴史は、1956年に孤児となった20人の赤ちゃんを政府の施設で育てたことに始まります。その後試験的に里親事業が始められ、少しずつ里親と暮らす子どもを増やしてきました。
2014年には、政府が800万シンガポールドル(約7億円)を里親斡旋団体の拡大に投資し、2020年までに里親と暮らす子どもを600人にまで増やすことを目標に定めました。また、これまで政府が単独で行ってきた里親事業について、3つの社会福祉団体を里親斡旋団体として指定し、子どもに適切な里親家族を提供できるよう協力して取り組んでいます。里親斡旋団体は里親へのアドバイスをしたり、相談や講習の機会を設けたりして、子どもたちが里親の家庭にスムーズに受け入れられるよう支援しています。政府はその他にも、実際に里親の話を聞くことのできるイベントを開催し、国民の里親制度に対する理解を深め、子どもの受け入れを促進しています。
2016年には、シンガポールの里親制度60周年を記念した冊子が発刊されました。ウェブ上でも公開されている「Room at the Table」と題されたこの記念誌は、シンガポールの60年間の里親政策の歴史、政府機関や関連団体担当者のコラムや里親家族が紹介されています。里親家族を紹介したページには、それぞれの家族の物語や談話とともに、家族お気に入りの料理とレシピが掲載されており、シンガポールを象徴する多種多様な料理はとてもおいしそうで、温かい家族の食卓を感じることができます。
これらの努力により、2016年には、里親の元で育てられている子どもは2013年と比べ40%増加しましたが、特別支援を要する子ども、年長の子ども、また兄弟を受け入れることができる里親が少ないことが、現在の重点課題となっています。
しかし、このように子どもの成長にふさわしい家庭環境づくりを支援する政府の積極的な取り組みは、家族を大切にするシンガポールならではと言えるでしょう。
(シンガポール事務所所長補佐 川俣)