ブルネイにおける一村一品運動の海外展開

石油・天然ガスの産出国であるブルネイ(正式名称:ブルネイ・ダルサラーム国)ですが、その人口は42万人と少なく、一人当たりGDPはASEAN加盟国内でシンガポールに次ぐ第2位を誇っています。
とはいえ、エネルギー資源はいずれ枯渇が見込まれるので、政府は経済の多様化を目指した成長戦略に取り組んでいます。
その一環として、ブルネイ内務省は、地元の特産品を活かして新たな産業を育成する「一村一品運動」を推進しており、最近では、国外市場を視野に入れた取り組みに発展しています。

1.「一村一品ショップ」の開店

2017年10月、内務省はブルネイ国際空港に、国際空港を利用する外国人旅行者をターゲットとするアンテナショップである「一村一品ショップ」を開店しました。出国ゲートを出てすぐの一等地に立地し、地元産のユニークな食品や手工芸品が並べられています。中でも売り場面積が広いのは、地元で収穫したバナナを薄切りして揚げた「バナナチップス」です。味は、イチゴ味やミロ味など7種類と豊富で、ここでテストマーケティングを重ね、最終的には海外市場への出荷が期待されています。

2.「ASEANリーダーシップ賞」の受賞

この「バナナチップス」を製造するブルネイ北端のカポック村を訪問する機会があり、村の代表に話を伺ったところ、当村での一村一品運動の目的は、女性、高齢者、失業者等に地域への参加機会を提供する点にもあるとのことです。したがって、自動化機械を整備したものの現在は使用しておらず、バナナチップスの製造はすべて手作業で行っており、現場では、社会的包摂に寄与する施策としても機能しているように見受けられました。
この村の運動は、2017年10月に開催されたASEAN次官級公式会合において、「農村開発と貧困撲滅に向けたリーダーシップ賞」を受賞し、「バナナチップス」の国外PRにも大きく寄与しました。

3.「一村一品エキスポ」の開催

2017年11月、内務省は国王の即位50周年を記念して「第1回一村一品エキスポ」を開催しました。オープニングには、内務大臣をはじめとする政府要人のほか、在ブルネイの各国大使らが参加し、一村一品認定商品のロゴマークが発表されました。今後は、この新しいロゴマークを用いた地域ブランドの創出が期待されています。
また会場には、約150のブースが立ち並び、ブルネイの伝統的なお菓子やかご製品、はちみつ、竹細工などの工芸品が販売されました。

4.地域ブランドの確立に向けて

内務省より、地域ブランドの確立や品質管理をテーマに日本の先進的な取り組みを紹介して欲しいとの依頼が駐ブルネイ日本国大使に寄せられ、同大使館との連携によりクレアシンガポール事務所が協力することとなりました。そこで、兵庫県豊岡市から専門家を招聘し、「一村一品エキスポ」会場内でコウノトリの野生復帰を通じた「コウノトリ育むお米」等の地域ブランド創出についてセミナーを開催しました。参加者からは、新商品の開発や商品パッケージの改良、販路の開拓方法等に関する具体的な質問が相次ぎ、一村一品の起業家として課題を乗り越えようとする強い熱意が感じられました。

就業者の6割が公的セクターに勤務していることもあり、あえてリスクを取って起業する国民が少ないと言われてきたブルネイですが、一村一品運動を通じて地場産品の振興、ひいては海外販路開拓に情熱を注ぐ起業家が各村で育ちつつあり、静かに盛り上がっています。

(シンガポール事務所調査役 山谷)