シンガポールのIR導入時における社会的問題への対応策

日本では昨年12月に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律(IR推 進法)」が成立したことによりカジノの法制度化への道が開かれることになり、 外国人の観光誘客プロジェクトの一つとして統合型リゾート(IR)設置が注目 されています。一方、カジノ解禁に伴い反社会的勢力による活動の活発化やギ ャンブル依存症問題等の課題も提起されています。そこで、今回はシンガポールにIRが導入された際の社会的問題に対する対応策 をご紹介したいと思います。まずIRの定義を簡単に整理しておきましょう。IRとは「Integrated Resort」の 略称で、日本語では「統合型リゾート」と表現することが一般的です。言葉のとおり、ホテル、レストラン、ショッピングセンターや娯楽施設、会議場その他観光の振興に寄与すると認められる施設が一体となったものです。単なるカ ジノ施設ではなく、多様な客層や目的に対応できる複合観光施設といえます。ちなみにゲンティンシンガポール社は、自社が運営しているリゾートワールド セントーサを「真のデスティネーション(目的地)」と表現しています。
リー・シェンロン現首相は2005年、IR導入決断を発表する演説において、第一 の理由として観光産業の低迷、さらに都市国家シンガポールが「魅力ある都市」として再生する必要性があると述べました。そして政府がIR導入に向けて準備を進めたところ、世論は今の日本と同様、社会に対する負の影響を最も懸念していました。これに対し政府は、「シンガポ ール国民及び永住権取得者に対するカジノ入場料の賦課」、「財政困窮者、社 会的支援を受けている者等のカジノ入場禁止」、「国内のメディアにおけるカ ジノ広告の禁止」、「ギャンブル依存症問題に対応する相談・治療機関等国家的枠組みの整備」などの対応策を立てて国民に向けて説明しました。政府がギャンブル依存症やマネーロンダリングといった社会への負の影響の可能性を事前に予測し、規制を行えば対処は十分可能であるという考えと具体的な対応策をきちんと国民に示したことで、合意形成が進んだとみられています。 また有言実行のスピードもすさまじく、上述の国民向け発表と同年には、国家 賭博問題対策協議会が組織されました。 そして2010年にマリーナベイサンズとリゾートワールドセントーサの二大IR施 設が完成しました。当初危惧されていたギャンブル依存症問題については、対応策がきちんと機能しており、現在大きな社会問題として取り上げられること はありません。また、観光への寄与だけでなく、自国民の雇用創出や、収益を 福祉事業に一部還元するなど地域にもしっかり貢献しています。
このように、シンガポールのIRは正と負の両面を上手くコントロールしている 優良事例ということで、多くの日本の自治体も視察に来ます。
今後日本でIRを 推進していくにあたり、シンガポール同様、国民への説明責任をしっかり果た していかなければなりません。当事務所では今回紹介した情報のみならず、シ ンガポールのIR政策について随時調査を行っています。
https://www.clair.org.sg/j/wp-content/uploads/2017/12/201408-SIN-CASINO.pdf
https://www.clair.org.sg/j/wp-content/uploads/2017/12/201408-SIN-NAMS.pdf

依存症対策について関係機関の日本語訳資料も用意しておりますので、必要な 情報がありましたらお問い合わせください。
Tel:(65)6224-7927
E-mail:info@clair.org.sg

(シンガポール事務所所長補佐 川崎)