シンガポールのケーブルカー運営の現状

福岡市では,ウォーターフロント地区(中央ふ頭・博多ふ頭地区)において、MICE機能や海のゲートウェイ機能の強化とあわせ、海辺を生かした賑わいの創出を図る取り組みを進めています。併せて、都心とウォーターフロントをつなぐ交通動線のさらなる強化のため、新たな交通手段の導入等を検討するなど、市民や国内外からの来街者の方々に親しまれる空間づくりと共に、「クルーズ」「MICE」「賑わい」が融合した一体的なまちづくりを目指しています。
この再整備計画の参考とするため、住宅都市局長をはじめとする福岡市の職員がシンガポールを訪れ、ウォーターフロントの開発状況を視察するとともに、シンガポールケーブルカーの運営会社を訪問し、ケーブルカーの運営状況や、ケーブルカー導入の効果等について調査を行いました。

訪問先では、モーターや運行システムなどの設備を見学するとともに、運行に関わる技術職員から話を聞きました。シンガポールケーブルカーはシンガポール本島とカジノやユニバーサルスタジオシンガポールが位置するセントーサ島を結んでいます。現在、平日は一日2,000~3,000人、休日になると6,000~7,000人が利用しています。
運行に当たっては、安全性が最も重視されており、何重にも安全対策を図っています。日、月、年単位の安全チェックリストを整備し、システム化して定期的なチェックを欠かさず行っていることに加えて、それでも緊急事態が起こった場合は手動でシステムを停止することとなっているそうです。さらに事故の場合の救助フローを定めて年4回の訓練を実施しているとのことです。そのような安全対策は政府に毎年実施状況を確認され、認可されないと運営ができないとのことでした。1983年、ケーブルの下を通過した石油掘削船のクレーンがケーブルカーに衝突し、2台のキャビンが墜落し、7名が死亡する事故が発生しましたが、このような安全対策の結果、それ以降は無事故を継続しています。話を伺った職員からは、長年の無事故に対する誇りと責任感が伝わってきました。
また、技術面だけでなく経営面に関する説明も印象深いものでした。ケーブルカー事業は現在黒字を維持しているそうですが、稼働率をさらに向上させるため必死だそうで、例えばキャビン内で食事ができるプランを販売したり、音楽を流せるように改良したりと、次々に新たな試みに取り組んでいるそうです。さらには、長年の経験を活かして、他国のケーブルカー事業のコンサルティングも実施していきたいという展望もあるようでした。この会社は政府系企業の子会社ですが、現状に甘んじることなくスピード感を持って挑戦を続ける姿勢には、自治体職員として学べることが多くあります。

今回訪問された福岡市は、訪問先から学びたいこと、質問事項等を具体的にまとめ、事前に準備されていたことから、訪問先も大変熱心に対応していただき、有意義な訪問となりました。視察の効果を高めるためには、訪問先に何を求めているのかを明確にし、的確に伝えることが欠かせないということを再認識しました。

シンガポールにおいては、訪問受入の必要性がないと判断され、アポイントを断られることも少なくありません。訪問目的を明確に、そして具体的に伝えることにより熱意が伝わり、アポイントの成約に繋がりやすくなります。

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