環境先進都市シンガポールのヒミツ ~グリーンインフラ強化と水・ゴミ政策を学ぶ~

皆さんはシンガポールを訪れたことがありますか? 東京23区とほぼ同じ面積の小さな島に540万人が暮らしているにもかかわらず、緑が豊かでゴミも見当たらない、とても美しい街です。その先進的な環境政策を学ぶべく、自治体国際化協会シンガポール事務所(以下CLAIR)は、2013年10月28日(月)、29日(火)の2日間、日本の地方自治体の職員を対象として、シンガポール政策研修プログラム「持続可能な都市コース」を開催しました。これは、7月に実施した同プログラム「観光戦略と海外販路開拓コース」に続く第2弾です。実施されたプログラムの概要を報告します。

1.シンガポールの環境政策概要~CLAIR

初めにCLAIRからシンガポールの環境政策について紹介しました。シンガポールの環境に関連した政策は、主に環境・水資源省(国家環境庁、公益事業庁)と国家開発省(国立公園庁、都市再開発庁)が担っています。それらの省庁が行っている大気汚染対策、水質汚染対策、廃棄物処理対策などの説明を行いました。

2.シンガポールの都市開発政策~City Gallery(都市再開発庁)

次に都市再開発庁が運営するSingapore City Galleryを訪問し、都市開発政策について学びました。1819年にラッフルズが初めて上陸した頃のシンガポールの人口は約150名ほどでした。その後、貿易港としての地位を確保すると、急速に近隣の国から多くの人が集まりました。現在は人口約540万人です。
限られた国土を有効に利用するため、各省庁が連携し、都市計画を策定しました。シンガポールでは40~50年の長期的な視点によるコンセプトプランと、より具体的な10~15年先を見据えた開発指針となるマスタープランの2つの都市計画を定めています。都市計画の大きな地区割りとしては、島の西側は産業地区、東側は空港地区、中央はビジネス地区としています。これらの都市計画に基づいて開発がなされる場合でも経済的な発展や利便性の向上といった点ばかりではなく、歴史的な景観と近代的な都市の調和や、住民の生活の質向上に向けた緑化の推進にも配慮がされています。
これまでは埋め立てによる国土の拡張や、建物の高層化による空間の拡張を行ってきました。今後は地下を有効に活用するための方策が進められているそうです。

3.シンガポールの緑化政策~国立公園庁

続いて国立公園庁(N-Parks)を訪問し、シンガポールの緑化政策について説明を受けました。国立公園庁はシンガポールの緑化政策の推進、国内に約300ある公園の管理、さらに園芸産業の育成を担っています。シンガポールは1800年代には熱帯雨林のジャングルに覆われた緑の島でしたが、1900年代に入り経済発展が進むと、次第に緑は失われ、灰色のコンクリートに覆われることとなりました。1960年代に当時のリー・クアンユー首相が提唱した「植樹キャンペーン」は、その後「ガーデン・シティ」政策として推進されました。この政策の狙いは居住する人々の生活環境を向上させることばかりではなく、世界トップレベルのガーデン・シティを築くことで国際的な競争力を高めることでした。さらに近年は「シティ・イン・ア・ガーデン(緑に囲まれた都市)」を新たな政策としています。樹木を植えるばかりではなく、建築物の屋上・壁面などの緑化や、高速道路・鉄道の高架下なども緑化するなど政策を強化しています。また、「パーク・コネクター構想」として、島内にある公園を繋ぎ、緑地スペースの拡大と住民が自然と触れ合う機会を増やしています。

4.シンガポールの水政策~公益事業庁

シンガポールは年間降水量が2,400mm(日本の年間降水量約1,600mm)と雨が多いにも関わらず、国土が狭く平坦な地形であることから貯水能力が乏しく、国内の水需要に対応しきれていません。そのため、シンガポールは次の4つの水源を利用しています。

①貯水…現在島内には貯水池が17あります。また、集水可能な地域は国土面積の60%ですが、これを2060年までに国土面積の90%まで高めることを目標にしています。
②水の輸入…現在、マレーシアから1日当たり約113万㎥を購入しています。これを2060年までにゼロにすることを目標にしています。
③下水の再生(NEWater)…現在、4つの工場で下水を真水に再生しています。天候に左右されず安定的に原料が入手できることから下水を積極的に活用しています。
④海水の淡水化…海水を淡水化して真水を作り出しています。今年の9月には第2プラントがオープンしました。

シンガポールは水に関連する産業の誘致・育成にも力を入れています。シンガポールにはこの6年間で日系企業も含め130の企業が拠点を構えたそうです。これらの企業の最先端の技術を取り入れ、コストダウンを図るとともにその技術を発展途上国に提供しています。

5.下水再生化の技術~NEWater Visitor Center

公益事業庁による水政策に関する説明の後、実際に下水を再生しているNEWater Visitor Centerを視察しました。NEWaterは次の3つの過程で生成されます。第1工程では直径0.004マイクロという細かい穴のある膜を通して下水をろ過します。第2工程では直径0.0004マイクロというさらに細かい穴のある膜を利用し、圧力をかけて水をろ過します。これらの過程でほとんどのバクテリアは遮断されます。第3工程では太陽の100倍の強さの紫外線を照射します。これらの工程は24時間3交代制で職員によって監視されています。こうして生成されたNEWaterは多くは工業用水として使われていますが、一部は貯水池などに放水された後、飲用にも使われています。

6.シンガポールの廃棄物政策~国家環境庁

シンガポールは高温多湿な気候であり、生ごみなどが腐りやすいことから、ゴミの回収は毎日行われています。シンガポール国民は毎日1人当たり900gのごみを出しています。回収されたごみは60%がリサイクルされ、40%が焼却されます。焼却灰と焼却不可能なごみはセマカウ島に埋め立てられます。1日平均1,779トンの焼却灰と541トンの焼却不可能なごみが持ち込まれていることから、このセマカウ島も2045年には満杯になってしまう見込みです。そのため、シンガポールは2007年に次の4つの基本方針を上げています。

①廃棄物量の最小化…家庭ごみの約3分の1を占める包装ごみを減らすため、政府・産業界・NGOが一体となって「シンガポール包装協定(Singapore Package Agreement)」を締結し、包装ごみの減量に努めています。
②リサイクルの推進…リサイクルに関する啓発運動やリサイクルごみを回収する仕組みを構築するなどの取り組みを行っています。
③廃棄物のエネルギー化…ゴミを焼却する際に発生する熱を電気エネルギーに変えて回収しています。この電気エネルギーはシンガポールの全電力消費量の2~3%にあたります。
④埋め立てごみの減量化…燃えるごみは焼却することで可能な限り容量を減らしています。焼却灰も道路の原料にすることを検討しています。

7.シンガポールの廃棄物処理~南トゥアス焼却場

その後、南トゥアス焼却場を視察しました。南トゥアス焼却場は2000年11月に完成しました。1日当たり3,000トンのごみを処理できるように設計されており、世界一の規模だった時期もあるそうです。シンガポールにはこの南トゥアス焼却場を含めて4つの焼却場がありますが、うち3つが日本のメーカーによる設置です。最新の設備が導入されており、中央制御室のコンピューターで管理しています。中央制御室では職員が24時間、そのコンピューターを監視しています。
ごみの収集については2001年に民営化されました。シンガポールを約10万世帯ごとに分割し、エリアごとに入札にかけています。家庭ごみは収集料金が必要であり、マンションなど高層住宅は1世帯4~7シンガポール・ドル/月(約320~600円)、戸建て住宅は16~23シンガポール・ドル/月(約1,300~1,800円)が必要となります。住宅周辺の環境をよりよいものにしていくため、住宅地の地下にごみ集積施設を造る計画もあるそうです。

8.廃棄物の再利用~LHT HOLDINGS LIMITED

廃木材から荷物運搬用のパレットなどを製造している企業であるLHT HOLDINGS LIMITEDを訪問しました。従前はマレーシアから原材料となる木材を輸入していましたが、1997年に木材の輸入が禁止されたため、事業をリサイクルに転換したそうです。この業種では唯一、シンガポール証券取引所に上場しています。企業として順調に成長しているとのことでした。

9.最後に

シンガポールは、狭小な国土に多くの人が住んでいます。地下資源もありません。水、エネルギーも海外に依存してきました。しかし、シンガポールは政府主導による計画的な街づくりとテクノロジーの有効活用によって、これらの弱みを克服し、強みへと変えています。今回視察した緑化政策、水政策、廃棄物政策などは、世界で最先端の取り組みを行っていると言っても過言ではありません。

今回のプログラムはわずか2日間でしたが、非常に充実したもととなりました。CLAIRでは、今後もこのような各種政策を学ぶ機会を提供していきたいと考えています。是非、ご活用ください。

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(長濱調査役 埼玉県派遣)