島国であるシンガポールでは、限られた国土を最大限に活用するため、政府が長年にわたり
「埋立地」の造成を進めてきました。経済発展に伴い、住宅、公園、産業地区などの用地確
保が必要となる中、埋め立ては国の発展に欠かせない戦略のひとつです。
同国の国土面積は、1960年には581.5㎢でしたが、2030年までに766㎢とする計画です。実現
すれば、70年間で約1.3倍、面積にして約185㎢の拡張となります。東京23区の約3分の1に
匹敵する広さで、まるで都心の一角を丸ごと海から生み出すようなイメージです。
一方で、シンガポールの多くは海抜の低い土地であり、地球温暖化による海面上昇は中長期
的な脅威です。こうした課題に対応するため、都市再開発庁(URA)は2023年、東部沿岸に
全長約20kmの人工島「ロング・アイランド」の開発計画を発表しました。このプロジェクト
は100年先を見据えた国家的取り組みであり、最終的には約8㎢の島が誕生する予定です。
これは、経済発展と気候変動対策を両立する象徴的なプロジェクトともいえるのではないで
しょうか。30年後、50年後のシンガポール本島から見る海の風景は、今とは大きく変わって
いるかもしれません。
また、シンガポールは「横」に加えて「下」にも広がろうとしています。公共交通機関MRT
(大量高速輸送)は、限られた空間で効率よく移動する手段として、都市計画の中核を担っ
ています。現在、島内には6路線(合計約240km)が走っていますが、今後はさらに2路線
が新設される予定です。そのうちのひとつでは、自然保護区の地下70mを貫く路線建設が決
定しており、完成すれば世界でも有数の地下深い地下駅のひとつになります。参考までに、
日本で最も深い地下鉄駅は都営大江戸線の六本木駅(地下42.3m)です。
陸も海も地下も活用しながら「広がり続ける国・シンガポール」は、これからも世界の注目
を集め続けるでしょう。
(シンガポール事務所 所長補佐 安本)
【参考文献】
< https://www.clair.org.sg/wp-content/uploads/2025/03/b132437ccec1cb417a4ba09c0f6981f1.pdf >
< https://www.sg101.gov.sg/infrastructure/case-studies/sand/ >
< https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/tokyoto/profile/gaiyo/kushichoson >
< https://www.ura.gov.sg/corporate/planning/Master-Plan/Draft-Master-Plan-2025/Long-Island >
< https://www.lta.gov.sg/content/ltagov/en/upcoming_projects.html#rail_expansion >
< https://www.lta.gov.sg/content/ltagov/en/upcoming_projects/rail_expansion/cross_island_line.html >
< https://www.japan-tunnel.org/sites/default/files/inline-files/TUNNEL2015.pdf >
