【千代田区】職員等がシンガポールの多文化共生施策等を学ぶ

千代田区では例年、職員と区民が参加する海外研修を実施しており、本年度は多文化共生と観光の活性化をテーマとして2019年11月5日から12日までシンガポールを訪問したことから、同行支援を行いました。

■ ムスリムに配慮したコミュニティクラブ

まず一行は、ゲイラン地区にあるコミュニティクラブを訪問しました。

シンガポールには、様々な地域活動や地域サービスが展開される場として国内各地にコミュニティクラブがあり、地方自治体の無いシンガポールにおいて重要な地域拠点としての役割を担っています。

今回訪問したコミュニティクラブはイスラム教徒(ムスリム)が多い地区で、イスラム教の戒律に則って調理・製造された商品であることを示すハラル認証を取得しているレストランや、地区の歴史を紹介した博物館が併設されていることに研修生は驚いていました。

■日本文化の発信における配慮

続いて、シンガポールにおける日本文化に関する情報発信の拠点であるジャパン・クリエイティブ・センター(JCC)に移動し、日本文化を発信する際に配慮している点を伺いました。

対応いただいた職員の方からは、ご自身がアメリカで過ごした幼少期の体験を交えながら、シンガポールの多文化への寛容さが紹介され、またJCCとして、宗教に触れないような発信をしていることや、ムスリムが日本を旅行した情報については日本の伝えたいことの押し付けではなく、ムスリムが感じたことを発信するようにしたこと、などが説明されました。

■住民の理解を得た上での先進的なデング熱政策

研修の一環で訪問した環境庁では、デング熱対策について意見交換を行いました。

シンガポールは人口密度が高く、蒸し暑いという特性上、一度デング熱が発生してしまうと感染の拡大が早く、対策が困難となるため、感染源となる蚊の発生を抑える事前対策を徹底して行っています。

事前対策実施にあたっては、感染増加時期の前に関係省庁が参集する会議を開催し、それぞれの省庁で所管する部分について役割分担をして対応しています。対策を主導する環境庁では、デング熱対策に対する各種メディアを活用した広報活動や職員による現地検査等を行っており、検査の結果、蚊の発生源として特定された場合には、企業、個人を問わずに罰金が課されるという厳しい対策をとっています。

また、他省庁の取り組みの例として、国民向けの公営住宅を整備している住宅開発庁では、新たに住宅を建設する際に雨樋を無くすなどして水が長時間滞留しにくい構造にするなどの対策が紹介されました。

また、2012年から研究が開始され蚊の繁殖抑制に高い効果を上げているボルバキアプロジェクトについても説明がありました。これは、ボルバキア菌の昆虫の繁殖を阻害する特性を利用し、この菌に感染したオスの蚊を自然界に放つことで、蚊の繁殖を抑える対策で、このプロジェクトにより2018年から2019年の期間において、7~8割の蚊の発生抑制効果が確認出来たとのことです。

実際に蚊を放つ前には、対象となる地域に対する事前説明会をして行っているとのことで、政府が強い権限を持ちながらも、地域への説明を十分行い、住民の理解を得た上で先進的な政策を行っている点が印象的でした。

■充実した人生を送るための高齢者対策

最終日の午前、保健省を訪問し、高齢化対策について意見交換を行いました。

シンガポールでも日本同様、高齢化は大きな問題になっており、2030年までに60歳以上の人口が100万人に達すると言われています。

そうした中で政府は、4,000人以上の国民からヒアリングを行い、国民のニーズを把握した上で、各種高齢者対策を実施しています。

例えば、高齢者が自分の関心がある分野について学べるNational Silver Academyというプログラムを提供しているほか、地域でのボランティア活動に従事しやすい仕組みを作ることで、退職後も充実した人生が送れるよう支援をしています。

また、孤立しがちな高齢者のみで暮らす世帯を支援するため、ボランティア(主婦、学生、近隣住民等)が週1回訪問し、高齢者の状況の確認等を行う取組も行っています。多様な民族が暮らすシンガポールでは、使用する言語も様々ですが、訪問したボランティアが高齢者と円滑にコミュニケーションがとれるよう、高齢者が使用する言語を事前に把握し、それに対応出来るボランティアを派遣するなどの配慮を行っているとのことでした。

更にシンガポールでは、高齢者対策にITを活用している点も大きな特徴です。最近では、スマートフォン等のIT機器を使いこなせる高齢者も増えてきており、保健省が実施した調査では、6割以上の高齢者がIT機器を使用出来るという結果になったそうです。保健省ではHealth Hub健康管理のアプリを開発しており、国民及び永住者が利用可能です。このアプリは、受けた予防接種の記録や健康診断の結果、過去に処方された薬の履歴などを一元的に管理できるもので、結果の記録だけでなく、政府等が実施する各種健康関連イベントについても閲覧出来るとのことでした。スマートネーションの取り組みを進めるシンガポールらしい先進的な取組だと感じました。

■高齢者専用の複合施設

続いて一行は、午後、北部ウッドランドにある「カンポン・アドミラリティ」を視察しました。

こちらの施設は、高齢者専用の住宅やデイケア施設、医療機関、フードコートなどを完備した複合施設で、2017年に完成したものです。住宅スペースのつくりは、段差をなくしたり、緊急時の呼び出し装置を設置したりするなど、高齢者が生活するのに適した設計となっています。また、フードコートでは、料理の量が通常の半分程度で低価格なメニューを用意しており、高齢者に配慮した対応がされていました。

この施設の大きな特徴として、高齢者と若者が交流する機会を創出する仕組みづくりがあります。施設1階には、若者向けの店舗が入居しているほか、パブリックスペースも設けられ、近隣に住む若者が施設に集まりやすいつくりとなっています。また、施設6階には、高齢者のデイケア施設と幼稚園が設置されています。高齢者は、週1回は必ず幼稚園を訪問することが求められ、幼稚園児が散歩する際に幼稚園の先生の補助をしたり、絵本を読んであげたりする取組を行っているとのことです。

施設の中で生活に必要なすべてがそろうという快適性と、若者との交流を通じた高齢者の孤立防止を兼ね備えた先進的な取り組みにみなさん高い関心を示されていました。

~支援後の所感~

日本にとっては直近の課題である多文化共生ですが、シンガポールでは特別に意識することなく、自然に行われています。今回の研修を通して、千代田区に住む外国人の方が「日本に住んでいる」と特別に意識することなく生活できる環境が整えられることを期待しています。

(今井所長補佐 北海道池田町派遣)

(打木所長補佐 群馬県派遣)

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