日本・インドの地方自治体間交流とその発展可能性

2017年8月28日から9月1日にかけて、クレアシンガポール事務所は在インド日本国大使館、JNTOデリー事務所、JETROムンバイ事務所などを訪問し、インドにおける日本の自治体の活動状況に関する調査や現地関係機関との連携強化を行いました。併せて、和歌山県教育関係者によるムンバイ市の学校訪問の現場も取材してきましたので、その様子などを報告します。

(1)日本・インド間の地方自治体交流の現状

日本・インド間の地方自治体交流として最も古いものは1965年の横浜市とムンバイ市の姉妹都市締結です。戦前から多くのインド商社が横浜市にあったことから関係が深まり、当時のムンバイ市長からの申し入れを受け姉妹都市締結に至りました。横浜市は、姉妹都市交流50周年を迎えた2015年にムンバイ事務所を開設(市職員1名、現地スタッフ1名体制)し、成長著しいインド及び東南アジア地域との都市間交流等を促進しています。近年は、企業誘致といった経済分野にとどまらず、学術分野における人的交流の拡大に取り組むなど、その活動範囲は多岐にわたっています。
2006年には岡山県とプネ市、2007年には福岡県と準デリー州などの間で文化・経済・教育など幅広い分野にわたって都市間交流を行うための友好協定が締結されました。また、岡山県-プネ市間の友好協定締結10周年を記念して、2016年にはプネ市において記念式典が開催されたことに加え、2017年度には福岡県と準デリー州との間で記念式典やセミナーの開催などが予定されるなど、経済、文化、教育などの幅広い分野におけるさらなる交流促進が期待されるところです。
また、経済成長著しいインドへの注目がますます高まるにつれ、経済交流をはじめとする特定の分野に限定した協定を結ぶ例も増加傾向にあります。全13件ある姉妹都市・友好都市提携を含む日本・インド間における自治体間協定のうち半数以上の7件がここ4年以内に集中して締結されており、より的を絞った交流を望む自治体が増えていることが伺えます。

〔直近4年間に締結された協定〕

締結時期 日印の自治体 締結内容等
2013年10月 和歌山県-マハラシュトラ州 観光・食品加工に関する覚書
2014年 8月 京都市-バラナシ市 パートナーシティ提携意向書
2014年 9月 三重県-カルナタカ州 貿易投資分野における覚書
2014年11月 神奈川県-タミルナドゥ州 経済交流促進に関する覚書
2015年12月 山陰5市-ケララ州 経済面に関する覚書
2015年12月 富山県-アンドラプラデシュ州 交流・協力に関する覚書
2016年11月 兵庫県-グジャラート州 相互協力に関する覚書

(2)和歌山県教育関係者によるプネ市・ムンバイ市の学校訪問

①経緯

和歌山県は、インドの経済成長を牽引しているムンバイを州都とするマハラシュトラ州との間で、2013年10月に観光交流、食品加工、企業間協力にかかる覚書を締結しました。この覚書を契機として、2014年 6 月に県世界遺産センターと同州アジャンタビジターセンターが相互 PR や人的交流を目的とした協定を締結しました。さらに交流事業の体制作りの一環として、2014 年 8 月に同州オーランガバード市に、2017年4月にムンバイ市に和歌山県事務所を開設しました。その後も、JICAの草の根技術協力事業やクレアの自治体国際協力促進事業などを活用してその交流を深めてきました。

②意見交換

両県州の将来を担う若年世代の交流を推進するため、インドとの交流に関心のある教育関係者5名(中学・高校の先生4名、市教育委員会職員1名)が2017年8月25日から28日にかけて同州プネ市及びムンバイ市を訪問し、現地の教育関係者と今後の交流の可能性について意見交換を実施しました。当事務所は最終日のG. D. Somani というムンバイ市の学校での教員同士の意見交換の場に同席しました。
和歌山県との学校交流について訪問校からは、これまでの同校とオランダの学校との交流について説明。さらに、和歌山県が2013年以降、マハラシュトラ州と様々な分野で交流してきた経験を持つだけでなく、県内に豊富な観光資源、歴史・文化も有していることから、交流先として大変魅力的だという意見がありました。また、世界遺産や宗教、環境、アートといったテーマで交流につなげていきたい、まずはSkype等を活用した交流を皮切りに、息の長い人的交流につなげていきたいといった発言もありました。
なお、今回、当事務所が訪問した学校はムンバイの1校だけでしたが、これ以外に和歌山県が訪問した5校においても同県との学校交流に前向きだったようで、県担当者も今後の交流に向けて大きな手応えを感じたとのことでした。

当事務所としても和歌山県とマハラシュトラ州との交流の発展に注目し、支援していきたいと考えております。

(3)訪日観光の促進に向けて

2016年11月、モディ・インド首相が訪日した際、安倍首相との間で、日本・インド間の人的交流をさらに活発化させるため2017年を日印友好交流の年とすることに合意しました。2017年は日印文化協定発効60周年でもあり、日本・インドの両国において様々な交流事業が実施されています。こうしたことも相まって、近年はインドにおいて日本への関心が徐々に高まってきています。また、2017年6月には、JNTOデリー事務所が開設されました。
2016年には日本を訪問するインド人の数は過去最高の12万3千人(対前年比+19.3%)を記録するなど、訪日インド人の数は近年増加傾向にあります。インドにおいてはゴールデンルートに加え、学校教育等を通して広く知られている広島周辺の地域が人気を博しています。また、雪を見たいというインド人も多いため、スクールホリデーと開通時期が一致する立山黒部アルペンルートの人気も高まっているようです。
他方、これら以外の観光地については、残念ながらまだまだインドでは知られていない状況です。ということは、常に新しい発見や情報を求めるインド人に対して魅力的な情報を提供すれば、一躍人気の観光地になる可能性を秘めていることでもあります。
JNTOデリー事務所としては、人気ボリウッド女優を起用した日本のPR映像の作成や共同広告の設置、SNSによる情報発信、拡大する海外ウェディング誘致など、訪日観光客を増やすために様々な取り組みを実施していく予定とのことです。

(4)インド進出日系企業の状況

近年、インドは毎年5~8 %の高成長を続けており、今や主要新興国の中で最も高い成長率を誇っています。また、国際通貨基金(IMF)によると、インドの実質GDP成長率は、2017年が前年比+7.2%、2018年が同+7.7%と、この先さらに成長ペースが加速することが見込まれています(「World Economic Outlook, April 2017」)。
インドにおけるこうした成長率の高さを背景に、100社前後の日系企業が毎年新たにインドに進出しており、2016年10月現在、実に1,305社もの企業がインドに進出しています。内訳としては、自動車関連企業が最も多く、近年は電機(家電、産業用)、金融(銀行、保険)、医療関係(医療機器、医薬品)、環境技術(太陽光発電、省エネ技術等)、食品加工などの分野においても本格的な進出が進んでいるとのことです。

確かに、インド行政の不透明さや独特の慣習・身分制度、インフラの未整備などのため、設立から黒字化までに他国の倍の年数がかかることが想定されるなど、デメリットを指摘されることが少なくありません。しかし、インド国内において日本企業専用の工業団地の開発が様々な地域で進むなど、人口13億人を有する魅力ある市場を求める企業も着実に増えてきています。

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