独立当初から国民の教育を極めて重視してきたシンガポールでは、学生への奨学金は、財政的支援を必要としている者への援助であると同時に、資金提供者にとって優秀な人材を早期確保する手段としての側面があります。
特に、政府が支給する奨学金の多くは「名誉ある奨学金」と見なされ、最も優秀な学生にのみ授与されます。条件なしの奨学金制度もありますが、多くは、政府奨学金を受けた学生には、卒業後4年から6年の間、政府機関で勤務する義務が課せられています。
数多くある奨学金制度の申請手順、卒業後の義務などを説明するため、シンガポール政府は毎年、高校卒業予定者を対象とした「政府奨学金フェア」を開催しています。2025年9月に開催された同フェアの会場では、多くの省庁や法定機関が出展し、各奨学金制度の説明に加えて、実務者による各省庁の役割、所管業務の紹介や、キャリア相談なども実施され、高校卒業予定者向けに公共サービス職の魅力がアピールされていました。
さらに、在シンガポール日本国大使館や中国大使館、海外の大学などによる留学説明会も行われました。シンガポールでは、ほとんどの授業が英語で行われているため、留学先としてアメリカやイギリスへの関心が最も高いようでした。一方で、日本への留学に興味を示した学生の多くは、日本の社会環境や文化に関心を持っていました。
政府奨学生は、政府と相談しながら幅広いコースから個人の希望する専攻分野を履修できるとされています。海外留学向け奨学金には、授業料、往復航空運賃、生活費、承認された交換留学プログラム、夏季講習などの必要な費用が含まれています。加えて、奨学生が卒業後に公務員として活躍できるよう、シンガポール政府は、休暇期間中の短期研修などさまざまな能力育成プログラムも用意しています。また、非英語圏の大学へ留学する場合には、必要に応じて、学習開始前に1年間の語学研修も支援しています。さらに、非英語圏へ留学した奨学生には、卒業後の就労義務期間が英語圏奨学生の6年間から1年短縮され、5年間の就労義務が課されます。
異なる言語環境で学んだ学生は、多面的な考え方や問題解決能力を身につけていることが期待され、公共サービスに多様性をもたらす観点から、政府は英語と母語以外の言語を学んだ履歴のある学生には非英語圏への留学を奨励しています。しかしながら、実際には非英語圏を選択する学生は少なく、現在日本に留学している政府奨学金受領者は少数にとどまっているとのことでした。
日本で奨学金というと、経済的に恵まれない学生が安心して大学に通えるようにするための金銭的援助の面に着目されがちですが、シンガポールでは、このように、政府が将来の職員を早期に確保するための取り組みとしても活用されているのです。
(シンガポール事務所上級調査員 チュア・フィーテン)
【参考文献】
< https://www.psc.gov.sg/scholarships/undergraduate-scholarships/psc-scholarships >