シンガポール政府は、医療費の増大と高齢化の進行に対応するため、2023年から国家プロジェクト「Healthier SG」を始動しています。このプロジェクトは、従来の「治療中心の医療」から「予防中心の医療」へと転換することを目的としており、住民がかかりつけ医を登録し、医師が生活習慣や既往症に応じた個別の健康計画を策定する仕組みです。登録者は特典として、無料の健康相談や予防接種、補助対象の健康診断などを受けることができます。
この取り組みの一環として、政府は、医療のデジタル化を積極的に推進しています。Healthier SGへは、「Health Hub」(ウェブポータル兼アプリ)を通じて登録が可能であり、受診予約や検診結果、ワクチン接種履歴などを一元的に管理し、住民が日常的に自身の健康情報を確認できるようにしています。
また、健康促進庁(HPB)が住民の健康行動を促すために運営する「Healthy 365」(アプリ)では、食生活や歩数、運動データを記録し、健康行動に応じてポイントを獲得できます。このポイントは特典と交換可能です。
一方で、こうした医療のデジタル化を進めるにあたって、高齢者が取り残されないように支援する取り組みも行われています。情報通信メディア開発庁(IMDA)が実施する「Seniors Go Digital」は、高齢者がスマートフォンやオンラインサービスを安心して利用できるよう支援する全国的なプログラムです。コミュニティセンターや図書館などに政府公認のデジタル・アンバサダーが配置され、メールなどの日常的な使い方だけでなく、政府提供サービスの操作を含む相談や指導を行っています。これにより高齢者は、自ら健康記録を確認したり、オンラインで予約や情報検索を行ったりすることが可能になっています。
このように、Healthier SGの推進と Seniors Go Digitalの支援は連動しており、シンガポールでは医療のデジタル化をすべての世代が活用できる体制が整えられています。
(シンガポール事務所 所長補佐 長田)
【参考文献】
< https://www.moh.gov.sg/ >
< https://www.healthhub.sg/ >
< https://www.hpb.gov.sg/ >
< https://www.imda.gov.sg/ >