2016年12月1日から12月10日にかけて、当協会三枝理事を団長として、タイ・ラオス・カンボジアにおける日系企業の進出状況視察を行いました。タイプラスワンと言われるラオス、カンボジアに関しては、バンコクに支所を開設するなど、中小企業の海外進出の支援に取り組んでいる、東京都の三名の方にも本視察にご同行いただきました。
①西野義典様(東京都立産業技術研究センター 技術経営支援部バンコク支所長)
②堀切川祐子様(東京都中小企業振興公社 タイ事務所長)
③五十嵐美穂子様(東京都立産業技術研究センター国際化推進室輸出製品技術支援センター長)
今回は総勢10名のミッション団を組みました。タイプラスワンの成長著しい経済の最前線の現場を簡潔に報告致します!
2006年夏、東京都大田区はバンコクの郊外・アマタナコン工業団地に「オオタテクノパーク」をオープンしました。バンコクの東南東約57キロ、チョンブリ県にあり、都心部から高速道路を利用し約1時間、スワンナプーム新国際空港から約40分と好立地です。タイで最大の工業団地開発運営企業「AMATAコーポレーションPCL社」が全面出資し、大田区の中小企業向け賃貸集合工場として運営されています。昨年は25ユニット全てが埋まっていましたが、規模拡大のため、他の場所に移転した企業があり、現在は、20ユニット、10社が入居しています。ここで製造された製品は、日本やASEAN各国をはじめ世界に輸出され、まさに大田区中小企業の海外進出の足がかりとなっています。今回は、プラスチック部品の成形・組立作業を行っている、THAI YASHIMA CO.,LTD.、特殊切削工具製造のSHIN-EI(THAILAND)Co., Ltd.に訪問のご協力をいただきました。
ベトナムにおいて、2015年度に神奈川県が貸工場を活用した進出支援を始め、また、カンボジアでは、現在、豊田通商が貸工場の運営をスタートしています。スキームこそ異なりますが、オオタテクノパークは、そういった自治体や企業の海外進出支援の先駆けとしてタイで運営されています。
タイでは最低法定賃金が約197ドル/月程度ですが、日系企業の実質負担額は528ドル/月とも言われます。ラオス、カンボジアに比べると人件費が多少高いですが、ASEANの中ではインフラや投資環境が比較的安定しているなどのメリットがあります。タイに拠点を置きながら、並行して他のASEAN地域への進出を検討する企業も増えており、タイで生産をしながら次を見据えている企業の今後の動きにも注目です。タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムは陸続きで既に大きな経済圏が形成されています。その中心的位置としての今後のタイの役割は、ますます重要となります。
ラオスは、面積:24万㎢(日本の本州と同程度)、人口:約649万人。全人口の内、25歳未満の人口が約60%を占め、ASEANで最もと言って良い程、若い労働力のある国です。ラオスの方は、子供の時から農作業、手作業に慣れているため、手先が非常に器用です。また、宗教に信仰が厚く、温和な人が多い傾向にあり、車のクラクションもほとんど鳴りません。そういった気質から労働争議に発展するようなことは、ほとんどないそうです。
ヴィエンチャン都サイタニー郡ノントン地区にあるVITA Park経済特区は、2009年10月30日にラオス政府(商工省)30%、ナムウェー開発社(台湾)70%のシェアで設立されました。正式名称はVientiane Industry & Trade Park。2011年にラオスで最初に許可され、整備が始まったSEZ(特別経済区)です。ヴィエンチャン市街からもタイとの国境からも共に約60kmと好立地です。既に稼働済みの入居企業もありますが、現在開発途上です。インフラや区画の整備がさらに必要ですが、商工省出資の特区でもあり、今後通関のワンストップサービスなどを充実させていく予定とのことです。日系企業は、第一電子産業㈱、Lao Tool Co., Ltd.、三菱マテリアル㈱、Sisiku Lao Co.,Ltd.が既に入居しています。今回の訪問では、ワイヤーハーネスを扱う第一電子産業㈱にご協力をいただきました。
ラオス人は、タイ語でコミュニケーションをとることが出来るため、タイの技術者や幹部をそのままスライドさせて指導・監督することが可能です。タイプラスワンとして、タイ語でマネージメントできることは、タイに生産拠点を置き次の拠点を検討している企業にとって大きなメリットとなります。また、法定最低賃金は約111ドル/月、日系企業の実質支払賃金は約198ドル/月と言われており、実質支払ベースで考えるとタイに比して約1/3です。内陸ですので、輸送コストがネックになりますが、業種によっては、安価な人件費で十分に吸収できます。若い労働力の確保が容易であり、手先が器用な人材は、多くの企業にとって非常にメリットとなります。現状、インフラの脆弱性は否めませんが、電力については、タイに売電をするなどさほど問題ないレベルまで上がってきています。特区内では、税制上の優遇措置として、製造業法人税は3~10年免除(業種による)、サービス業法人税は3~10年半減となっています。商業法人税は外国資本可能で3年免除、個人所得税は、外国投資家は5~10%の課税となっており、現在特区に進出するメリットが非常に多い地域の1つと言えます。
カンボジアは、面積:18.万㎢(日本の約1/2弱)、人口:約1,554万人。1人あたりのGDPは年々急速に増加しており、2012年は945ドル。15年は1,200ドル、16年は1,308ドルを超えるとも言われています。特に、プノンペン市では5,000ドル以上の世帯も台頭しており、中間所得層の増加が著しく、個人消費が活性化しています。縫製業の輸出に代表されるように、カンボジアの方は、非常に目がよく手先が器用で若いです。労働組合という概念がまだ弱く、労働争議といったものはラオス同様、あまりないようです。
SANCO Poipet経済特区は、タイとの国境の街、ポイペト市(人口:約10万人、周辺のコミューンを含む)にあり、2013年、カンボジア資本51%、日本資本49%のSANCO CAMBO INVESTMENT GROUP CO., LTD. によって開発されました。バンコクから約310km、首都プノンペンから約400kmです。SANCO社はカンボジア人と日本人の個人による出資によって作られ、カンボジアでは珍しく、カンボジア電力公社(EDC)の許可を得て専用線で特区内のテナントに電力を供給しています。停電が多かった同地区において、現在は電力の安定供給が行われています。また、渇水期のバックアップとして敷地内に330,000㎥ の貯水池を設置するなど、管理面インフラ面において優れています。日系企業は、SC WADO COMPONENT (CAMBODIA) CO., LTD. (日本電産)、NHK SPRING (CAMBODIA) CO., LTD. (日本発条)、KOIWABOND (CAMBODIA) CO., LTD (NHKのテナントとして同居)、TECHNO PARK POI PET PVT CO., LTD. (豊田通商)が入居しています。今回の訪問では、上記3社に協力をいただきました。特に、いち早くポイペトに進出した日本電産の工場は、このあたりで一番大きな工場で約1,000人近くのスタッフがいます。
カンボジアの人件費はラオスより20~30ドル高い程度で、タイに比して非常に安価です。法定最低賃金は約140ドル、日系企業の実質支払賃金は約220ドル/月と言われています。実質支払ベースで考えるとやはり大きなコストメリットを出すことが可能です。経済特区によっても差がありますが、ラオスよりも電力供給やインフラが整っている印象です。また、カンボジアの一番のメリットは投資や輸入の規制がゆるやかな点です。I/VやP/Lを事前にきちんと申請すれば、即時に許可がおり、荷物の通関が可能です。政府もワンストップサービス等に積極的であり、物流においてメリットが出せます。特にポイペト地域は、国境から近く、タイのトラックが直接搬入出できるため、加工貿易なども可能です。原材料をタイの工場から仕入れて、人件費の安いポイペトで中間製品にし、その後タイの本工場に入れて最終製品にして出荷することで大きなコストメリットが生まれます。
カンボジアの男性はより高い賃金を求めタイに出稼ぎに行くようですが、若い女性は家族を大切にし、月に数回は実家に戻りたいため、タイ等他国に行くことに躊躇します。結果、国境の街、ポイペトに若い女性が集まっています。また近隣に操業している特区が1か所しかなく、農業以外で働く場所がないため、そういった意味でも、現在のポイペトは、若い女性の労働力を確保することが可能でストライキなどのリスクが低い地域です。同経済特区では、QIP(カンボジアの投資優遇措置)の取得が容易であり、QIPが取得できると、法人税の免除(売上計上後6年~9年)、輸出入関税の免除を受けることが出来ます。タイプラスワンを考える企業にとって進出メリットのある地域の一つとなっています。
ラオス、カンボジアどちらの国も、人の確保、人件費、物流面において今進出すると将来的に非常に大きなメリットを生む可能性に満ちている印象を受けました。数年前までは、電力の問題や人材確保の安定性、インフラなどまだまだ不十分でしたが、現在は、ラオスもカンボジアも重要な生産拠点として台頭しており、進出企業は、インフラ・人材面などの問題を克服し、黒字化に成功している所もあります。
中小企業にとって、海外進出は容易なものではありません。企業が新しい地域を求める前に、自治体がさらなる先の支援を考えていく必要があります。今後の企業活動の先駆けとして、自治体の先進的支援がタイプラスワンのメコン地域においても、さらに積極的に動き出すことを期待します。