カンボジアにおける女性教育と地位向上に関する取組みを調査するため、近年急速に発展している首都プノンペン及び国際的な観光都市である一方生活は貧しい地方都市シェムリアップにある政府機関や女性関連施設などを訪問しました。
調査期間 | 2016年7月3日(日)~7月9日(土) |
訪問先 | 【日本政府及び関連機関】 在カンボジア日本国大使館、JETROプノンペン事務所、カンボジア日本人材開発センター、日本国際協力センター(JICE)、かものはしファクトリー 【カンボジア政府及び関連機関】 教育青年スポーツ省、女性省、国家女性評議委員会、シエムリアップ州、プノンペン市女性局、The National Technical Training Institute、女性開発センター、カンボジア女性危機センター、美容院併設の職業訓練所、Cambodian Youth Network |
カンボジアでは、2013年9月に策定された「四辺形戦略(Rectangular Strategy)」(第三次)に基づき諸改革を進めています。その戦略の中で、「良い統治のための4つの課題」として、汚職撲滅、司法制度改革、行政改革、治安機構改革を、また、「4つの重点開発分野」として、農業、民間セクター、インフラ整備、人材育成を挙げています。
特に、1975年から1979年のクメール・ルージュ政権時代、知識人を中心に社会の中核を担う人材が大量に虐殺されたため、司法官、公務員、教員などの人材育成が肝要となっており、教育改革や職業訓練が最重要課題の一つとなっています。
カンボジアの教育制度は日本と同じく6-3-3制で、最初の9年は義務教育であり、この間は無償で教育を受けることができます。
政府は教育を国家戦略の中で重要な分野としており、教育の大切さと子どもを学校に通学させることの重要性を保護者に理解してもらうために広報活動を行っています。しかし、貧困層の子どもたちは家計を助ける労働力として期待されているため、教育の重要性を理解していない親が退学させたり、家族の生活のため自分自身の意思で退学する子どもがいるなど、小学校であっても退学率や留年率が高く、進学するにつれて就学率が低下していく傾向にあります。
カンボジアでは、教育以外に女性の地位や差別に関する課題があり、これも政府は重要な分野として位置付けています。具体的な課題としては、家庭内暴力、性暴力、人身取引などがありますが、十分な教育を受けなかったために女性が経済的に自立できていないことや貧困が背景にあります。
例えば家庭内暴力を受けた妻が警察に通報して夫が逮捕された場合、経済的に自立していないとその後の生活が立ち行かなくなるため、妻自身が警察に夫を釈放してもらうことがあるとのことです。
また、地方から職を求めてプノンペンに移住してきた人の中には、貧しい家庭のため治安の良くない地域に住んでいたり、親に知識がないために夜間にもかかわらず子どもを一人で出歩かせたりすることで、子どもが性犯罪の被害に遭うということもあります。
今回の調査では複数の女性にインタビューをしましたが、その中でも特に地方では夫が妻を殴るのは普通であるという認識が一般的であったことに驚きを隠せませんでした。カンボジアでは昔からの慣習で、女性は男性に従わなければならないという考えが未だ男女共に残っていろことがよくわかりました。
シェムリアップには「カンボジア女性危機センター」という、被害に遭った女性や子どもが生活をしたり職業訓練を受けたりするシェルターがあり、カンボジア国内に4つの事務所が設けられています。また、このセンターは地方自治体や警察、医師などと緊密に連携しており、すぐに女性たちを保護できる仕組みになっています。
センターでは保護や生活の場を提供する以外に、被害者を病院に連れて行ったり、告訴を希望する女性の手続をサポートしたりするなどの支援を行っています。また、女性がセンターを出る際には、再定住の場や就職先をあっせんし、その後も1年間はフォローアップを継続しています。
また、同じくシェムリアップでは日本のNPO団体が「かものはしファクトリー」という工場を経営しており、貧しい家庭の女性を雇用・訓練し、い草で作ったコースターやブックカバー、ペンケースなどの製作と販売をするとともに、女性たちに対してクメール語や算数などの教育も行っています。
ここで働く女性の中には、稼ぎが入ることで夫に対して自分の意見を言えるようになったり、自分でお金の使い道を決めることができるようになったりした方もいました。
このほかにも、カンボジア国内には女性の経済的自立の支援を目的として職業訓練を行っている「女性開発センター」が複数あります。このセンターは日本の援助で建設された施設で、縫製、美容、食品加工、簿記などのコースがあり、センターによって提供される内容は異なりますが、希望者は無料で受講することができます。
ここで働く女性の中にも、自分で物事の決定ができるようになった、または夫に対し自分の意見を言えるようになったと言う方がいた点が印象的でした。
また、シェムリアップ州政府の女性局では、意識啓発を進めるため、男女ともに参加できるフォーラムを開催しています。フォーラムでは、男女の固定的な性別役割に対する意識を変えていく必要があることや、家庭内暴力は犯罪であることなどの広報活動を行っています。また、警察官の身分を併任している女性局の職員もおり、警察署などと連携して被害者を迅速・安全に保護できるような体制も整えています。